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■強さとは早さなのか?
 まずは東1局、ハリー氏がドラ1の2900点を出アガリしました。7巡目にテンパイを取ったときの牌姿がこれです。
 ドラ
 ここに一枚目のが出て、すぐにポンしてを切ったのです。しかしこの手牌は一通の1シャンテンにもなっています。場にピンズが安かったため、を引いての一通狙いも有望です。そうすれば最低でも7700点となり、大きくリードすることができるのです。ましてやは一枚目ですから、競技プロならここでをポンする人は少ないと思います。

 けれどもハリー氏はをポンしてテンパイに取りました。そして9巡目に2900点をアガったのです。こういった打ち方を業界用語で「辛い」といいます。テンパイに辛い、シャンテン数に辛いといった使い方をします。不確定な夢を追うことなく、確実に得られるものを得ていこうという姿勢です。

 次局の1本場は、もっと早く決着がつきました。北家のありゃ馬氏が親の第一打のをポン。すぐにもポンしてテンパイし、崎見プロから1000点をアガったのです。崎見プロの捨牌はわずかにのみ。2打目に切ったで振り込んでしまうのですから、どうにもなりません。

 この2局を見て、「ああ、またこのパターンか……」と思わずにはいられませんでした。これまでに何人ものプロが、始まってすぐの数局からスピード負けして、そのままズルズルと不利な立場に追い込まれていきました。プロ対戦は半荘2回戦、わずか20局ほどの勝負です。最初の2局で押されてしまったら、もう7割方負けているのではないでしょうか。

 といっても、この2局に崎見プロがおかしな打牌をしていたわけではありません。ただ崎見プロの隣に座って観戦し、振り込みのダメージを共有することで、そう思ったにすぎないのです。

 このとき、予選大会で勝つことの難しさと、上位に入った人たちの強さをあらためて痛感しました。856人が参加した予選大会で、ハリー氏は1位、ありゃ馬氏は3位になっています(2位の方は都合により辞退しました)。そして唯我独損氏は前回のプロ対戦の優勝者です。

 彼らが持っているのは上手さでなく強さです。上手さは強さの必要条件であっても、十分条件ではありません。数百人規模の大会で上位に入るには、気合いが充実し、その高まりをバイオリズムや運命が後押ししないかぎり不可能でしょう。そして彼らは同じ気合いを持って、このプロ対戦に臨んでいるのです。それは全局アガリ切ってやろうという気合いです。

 その気合いの面で、崎見プロは負けていました。いや、負けているという言葉は適切ではないかもしれません。雀賢荘で勝ちに結びつくのは全局アガリ切ってやろうという気合いであり、プロ同士の対局で勝ちに結びつくのは、どこかで決定打を決めてやろうという気合いと言う気もします。崎見プロは役満女王と呼ばれるくらいですから、スピードで勝負しようなどという気は毛頭ないのでしょう。


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