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■東大式(?)反省会

 それでは、須田プロの1回戦の勝因と、2回戦の敗因を見てみましょう。1回戦は緻密な読みを活用して小場を制しています。しかし2回戦では、荒れ場のなかで大局的な戦略眼を見失ってしまいました。単純にいうなら焦ったのかもしれません。  

 若手プロの全般に、細かい牌姿の研究には熱心でも、押し引きについては研究しない傾向があります。けれども勝負に決定的な影響を与えるのは押し引きです。つまり勝負するべきかオリるべきかの判断ですね。

 若手プロとベテランプロの対局を見ていると、その差は大局的な判断だと感じさせられます。若手はそのときの手牌と捨牌について考えており、ベテランはそれ以外の部分についてよく考えています。

 押し引きを判断する方法として、一般的なものに流れ論があります。自分の流れがいいときには勝負し、悪いときには自重するという方法論です。けれども最近では流れを信じない若者が増えており、その結果として、判断不能すなわちケースバイケースとなっているように思います。

 ですが、流れと関係ない戦略眼によって判断できる局面もあるはずです。たとえば今回、須田プロがを打ち込んだ2回戦の東3局だったら、こう考えられるはずです。「2回戦は2着になればいいんだから、安い手で高い手に勝負するのは割りに合わないな。やーめたっと」。これがトップ条件だったら、「さらに親マンを追加されたら決定打になるから、体を張って阻止するっきゃないか」となるかもしれません。いずれにしろ単純な理屈であり、流れ以前の問題です。

 もちろん若手プロたちは、これくらいのことなら当然考えているはずです。しかし頭のなかでセオリーとして明文化していないために、追い込まれた状況ではミスが出てしまうのではないでしょうか。2回戦勝負といった複雑な状況になるほど、戦略的な判断の差は出るわけで、そんなときこそプロが本領を発揮するチャンスですから。

 ぼくはバイト先の後輩である須田プロに説教するため、こんなことを書いているのではありません。ここで、自分が須田プロの立場に置かれていたなら、あのを止められたかどうか自問していただきたいと思います。無謀な勝負は避けるべきであっても、その一方で短期戦はチャンスを逃したらそれっきりですから、じつは紙一重の判断です。その紙一重の判断にこそ、上級者の戦いを制する「戦略」が秘められていると思うのです。

 今回の須田プロの敗因から、もうひとつ教訓が引き出せます。それは(受験勉強みたいで恐縮ですが)苦手領域を克服すべしということです。おそらく須田プロは小場が得意で、荒れ場が苦手なのでしょう。

 麻雀を打つ人はたいてい自分なりの勝ちパターンを持っています。たとえば鳴きが得意な人だったら、鳴いたアガリが続いたときには、自分のペースだと思っているでしょう。また小場が得意な人だったら、微差のオーラスになったときは、自分が有利だと思っているのではないでしょうか。

 その一方で、勝ちパターンにハマらないときや、とくに苦手な状況のときには、あまり勝てる気がせず、気持ちがブルーになっていると思います。その落差が大きいと、結果として勝率は低くなってしまいます。やはり苦手科目の克服が必要なのです。

 麻雀は性格の出やすいゲームですから、自分の性格とは反対のところにウィークポイントがあるものです。大きくいって性格の出やすい軸はふたつあって、ひとつは「攻撃or守備」、そしてもうひとつは「スピードorじっくり」です。たいていの人は性格的にそれぞれどちらかに片寄りがあるものです。じっくり系の人は役牌イチ鳴きの千点キックをすることに心理的な抵抗があるでしょうし、防御型の人はリーチをかけられると崩れやすいものでしょう。

 受験勉強と一緒で苦手科目を得意科目にする必要はありませんが、足を引っ張らない程度にすることが勝率アップの秘訣です。まずは苦手な状況を意識面で苦にしないようになることで、セオリーっぽくいうなら「勝率アップのコツはラテン」といったところでしょうか。

 ここまで書いたあと、「近代麻雀」最新号でこんな記事を見かけました。岸本信宏プロという、これまた東大大学院に在籍していたことがウリの若手プロが、新しい理論を研究しているという話です。そのまま引用してみましょう。

 岸本の研究熱心さは、麻雀プロの中でも群を抜く。最近の課題は攻撃と守備の割り合いだ。
 麻雀は攻めてばかりでも、守ってばかりでも勝てない。その微妙な押し引きを数値化しようと試みているのだ。
 彼は「7:3論」と名付けられた独自の理論を構築する。一発裏ドラのあるルールでは、攻撃と守備の割り合いが7:3くらいが、最も勝ちやすいという。10局に換算すると、7局が真っ直ぐ和了りに向かい、残り3局が専守防衛。
岸本「もちろん、状況があるので画一化はできませんが、統計を取ればこの比率が証明されるはずです」
 傍目には攻撃的な岸本の打法は、数値に換算した打牌選択を基にしているのだ。(「近代麻雀」2002年6・1号 麻雀デラックス 第4回MONDO21杯 入江健治著より)

 ちょっぴり頭でっかち系の臭いはしますが、若手プロもやるものですね。こういった記事を見かけると、若手プロも捨てたものじゃないなと思います。

 進路を迷って何年か足踏みした末に麻雀プロとなった須田良規プロ。この業界で何とか食っていければいいと思うのではなく、狭い業界なりの中田英寿や小野伸二になってやると目標を持って欲しいものです。そして東大卒は頭でっかちで打たれ弱いだけではないのだと、証明してほしいと思います。同じ東大病に侵された仲間としてのささやかな願いです。



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